「米百俵」(山本有三)①

教育こそ未来を創る

「米百俵」(山本有三)新潮文庫

戊辰戦争で焦土と化した
城下町・長岡。
その窮状を見かねた支藩より
見舞いの米百俵が届く。
配分を心待ちにする
藩士が手にしたのは
「米を売り学校を建てる」との通達。
その決定を下した
大参事・小林虎三郎の命を
いきり立つ藩士が狙う…。

維新の時代にすでに、
教育の大切さに気付いている
人物がいたのです。
いや、この当時の人間の方が、
教育を大切にしていたと
言うべきでしょうか。

小林は藩士に説きます。
「食えなくなった理由は
日本人同士、戦をしたからである。」
「戦をしてしまったのは
優秀な人物が
藩にいなかったからである。」
「二度とおろかな過ちを
繰り返さないためには
人を育てることである。」
「米百俵も、
食えばたちまちなくなるが、
教育にあてれば
明日の一万、百万俵となる。」
理路整然としています。

振り返って
現代の私たちの国を見たとき、
慄然たる思いに襲われます。
教育予算は削減の一途を辿り、
老朽化した教育機器や設備を
更新できないでいます。
必要な人的補充がなされないまま、
現場の努力に丸投げされています。
小中学校は相次いで統廃合され、
子どもたちは
不便なスクールバスや親の送迎で
登下校せざるを得なくなっています。

大人の姿勢はすぐさま
子どもたちの心に反映されます。
中学生段階で学ぶ意欲を失い、
ゲームやネットに興じる
子どもたちの何と多いこと。
一週間の学習時間が
0の生徒も少なくありません。
学力全国一の秋田県でさえ
この状態です。
日本全国ではいったい
どうなっていることやら。

教育こそ未来を創る。
この当たり前のことを、
私たちの国は
忘れてしまったかのようです。

2012年にパキスタンで銃撃された
マララ・ユスフザイさん。
彼女が命の危険を冒してまで
学び続けようとしたのは、
学ぶことこそが
社会に平和をもたらし、
人々に平等な権利を与え、
未来を創り出すことができることを
知っていたからです。
「1人の子ども、1人の教師、
 1冊の本、そして1本のペン、
 それで世界を変えられます。
 教育こそがただ一つの解決策です。
 エデュケーション・ファースト
 (教育を第一に)。」

という彼女の願いは、
残念ながら私たちの国には
根を下ろさなかったようです。

教育が荒廃した社会に
待っている未来は、
戦争と焼土だけなのかも知れません。
それからでは遅いのですが。
古い戯曲であり、
すでに絶版となっているのですが、
現代にこそ必要な一冊と考え、
取り上げました。

(2018.9.13)

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